縫い目を辿るのは楽しい。
布を継ぐ際に必要に迫られ
糸が作る不思議なかたちがある。
真っ直ぐに迷いなく縫われたもの、
穴を埋めるために丸く進むもの、
星のようなかたちに見えるもの。
ひと針ひと針の足跡をたどるのは
地図で道を追うのにも似ている。
縫い目から見える人柄や暮らしを想像すると、
布への愛着もより一層深くなるのです。
安野光雅さんの絵本
フランス映画「リラの門」の一場面が
モデルとして描かれている
どこかの国のある日の「蚤の市」
ガンベルトや風見鶏という珍しいものもあれば、
古書や大工道具などの生活道具、
日本の大福帳やだるまを扱っているお店もあり、
どれもこれも魅力的である。
陳列されている品々は実際の市で見る
形や種類のものばかりで、
安野さん自身あちこちの蚤の市や骨董市に
足繁く通ったに違いない。
また描かれる人々の様子も愉快で、
店先で思案する人、店主と値段交渉をする人、
お酒を楽しむ人々、腹話術に夢中になる子ども、
それに混じって名画や物語の主役までもいて、
そちらを見るのにも忙しい。
登場人物に紛れて一つ一つのお店や人を
観察していたら、いつの間にか時間は過ぎ、
読み終わる頃には本物の蚤の市をぐるりと
ひと周りしたような達成感が味わえるのです。