May 22, 2016

Lion and Peony

モノと目が合うのはよくある事だが、睨まれる事はそう滅多にない。

なにやら視線のようなものを感じてそちらに目をやると、まるで赤ザクみたいなシルエットをしたアタマがニカっと爽やかにこちらを睨んでいた。



呼ばれるように近づいてみるとアタマの隣には先端に房のついた細長い布があり、ようやくアタマの正体が獅子頭だと気づく。
鼻は割れて欠損しているし、気をつけないと表面の塗料もぽろぽろと落ちてしまうぐらい年季が入っていて、売主のおじさん曰く江戸後期のものではないかとの事だったが結局どこの地域のものかは分からずじまい。
という事で、その後は持ち帰っての調査となった。

映像や画像以外で見た事がないので、獅子舞と言われてイメージするのは赤くて四角い顔に太い眉、金色の大きな目と口を持ち緑の胴体をした一般的なあれである。
それに比べるとこの獅子頭は目鼻や口の造形は共通しているものの、輪郭も丸くて赤色というより黒色であるし1本角まで生えていてどうも様子が異なる。
更には特徴的な耳も見当たらず、そもそも「獅子」なのか?という疑惑さえ持ち上がるものの眉の外側両端に小さな3つの穴が左右対称に開けらており、おそらく耳は別で付けられていたのだろうということで暫定「獅子」の座を獲得する。


蚊帳(胴体部分の布)に関しても同様に随分褪色し破れや穴もあるが、年月を経ても美しかった当時の様子は容易に想像できる、まさに布のチカラ。
詳しく見てみるとおそらく藍染であるその(麻?)布には幾つかの図柄が描かれており、一般的に描かれる巻毛文様(ドーナツのような丸い模様)は唐獅子の毛を表しているそうで、この文様だけで獅子の体を表現していることになるらしい。(暫定から「獅子」確定へ)
両端に大胆に配された渦毛文様だけでなく巻毛文様と対をなすように牡丹も描かれていて、これらが所謂「唐獅子牡丹」であり、獅子頭が一本角を持っている事からも石川県加賀地方の加賀獅子もしくは北陸のどこかの獅子舞ではないかと推測されるに至った。
(もし詳しい方がいらっしゃれば是非ともご教示願います)

獅子頭には強い霊力があり悪い気を食べてくれるそうで、人の頭をパクパクと噛むような仕草にはこういった理由があり、よって悪魔払いや疫病退治等の縁起物とされている。
更にはこれが加賀獅子の場合、この鋭い眼は「八方睨み」と呼ばれるらしく、それを知った瞬間これからも八方に睨みをきかせて良いものや楽しい事を見つけられますようにと、思わず手を合わせ頭を撫でたのでした。
時々口を開けて悪いものを食べてもらおう。