Dec 24, 2017

The Wall and I

新年に向けてそろそろ壁面を入れ替えようと思い候補になるものを出してみたら結構な数の「入れ替え待ち」がある事に気がついた。いつか飾ろうと思ってその都度手に入れたものがそれなりの量になってしまっている。

絵や写真が飾られているのが自然な環境で育ったので、壁面に何も無い空間は少し苦手だ。今の家に引っ越した時もまず最初にしたのは空っぽの壁に前の部屋から持ってきたレンテン族の布(風呂敷)を飾ることで、居慣れない空間に見慣れた物が在るというのがこんなにも心強い事なのだと痛感した出来事だった。きっとそれは人によっては誰かの存在であったり家具であったり、はたまた香りや音楽であったりするのだろうけど、いずれにせよ自分の眼や身体に馴染んだものが側にあるというのは頼りになる。

広げた入れ替え待ちを前にしてみると、どれもまだ額装していない事に気付く。以前なら額装しないといけない、と焦るところだがここ最近自分が好きなものを気ままに貼ったり付けたりしているうちに額装へのこだわりもすっかりなくなってしまった。中には額装すると決めているものもあるけれノープランのものも多く、とりあえず今飾りたいものを先にピックアップしてみる。

まずは少しずつ集めているドイツのTHILO MAATSCH1900-1983)のスモールピース。シンプルだけれどもインパクトのある構図、しかも黒と金という強い組み合わせのはずなのに柔らかな印象で、そこがとても良い。



次の2枚は何年か前に奈良の空樒で購入した東泰秀さんの作品。確かジョルジョ・モランディをテーマにした企画展で、本来この作品には甲斐みのりさんのテキストが別紙で添えられている素敵な冊子なのだけれど、いつか飾りたくて冊子にせずに置いていたもの。車窓からの景色と宝物のように仕舞われた人形や小物、どちらもとても好きなテイストだ。




THILO MAATSCHの作品は初めから額装するつもりだったので早速細めの黒フレームで素っ気ないぐらいあっさりした額装をオーダーした。古い額縁も似合いそうだけれど、他の2枚とのバランスを考えて今回は新しいものにした。

直感で選んだ3枚に強引ながら新年への抱負を重ねるとすると、色んな場所に飛んでいき、色んな景色を見て、大切に感じるものを一つでも多く見つけていきたい、というところだろうか。

額装の仕上がりが今からとても楽しみだ。





Nov 20, 2017

CARTE POSTALE 3

まめ書房にて開催したポップアップショップ『アチコチズストア』第3弾は台風という悪天候にも関わらず多くのお客様にお越し頂き、無事終了致しました。改めてご来店頂いた皆様、ご協力頂いた皆様ありがとうございました。ポップアップショップにて初お目見えした商品は今後ネットショップにも順次アップする予定です、しばしお待ち下さいませ。

さて今回もバイヤー"A"による @calotype_fr氏のCARTE POSTALEコレクションを購入。毎回選ぶものにテーマがあるわけでは無いが過去を振り返ると登場人物が身に付けている衣類のディテールやデザイン、暮らしのかたちや様子が見て取れるものをチョイスしているようだ。どれにしようか悩むことを楽しみつつ小道具とそれを取り巻く人々との関係が気になる2枚に決定、勝手ながら「籠と3人の男」「ハリボテ写真館」と命名する。

まずはこちらを窺う怪しげな男と目が合う「籠と3人の男」。中央の箱は人ひとりがすっぽり収まる程のコンパクトさにも関わらず扉には小窓、壁面には装飾が施された「小屋」のようになっていて、ハンドルの存在でようやく籠だと認識する。がしかし、一体何処へ行く籠なのかは謎は残されていた為 @calotype_fr氏に解説を依頼、宛名面を見ると消印は1913年のもので『こんにちは〇〇さん、オーヴェルニュのクレルモン=フェランに行く途中のホテルにいます。』といった内容の文章が綴られているらしい。オーヴェルニュはフランスの中部に位置する4県から成る山や湖等の自然に富んだ地域圏で、Volvicを初めとするミネラルウォーターの水源が多く存在し、特に火山群の麓に位置するクレルモン=フェランは温泉療養地として有名なのだそうで、この事から籠はリウマチ等の疾患を持つ湯治客を施設まで運ぶのに使用されたという事が判明する。温泉療養地というとヨーロッパでは古くから存在するリゾート(滞在)型の医療施設で、フェリーニの「8 1/2」等映画でも度々登場する入浴したり飲泉を摂取しているあの場所で、特にフランスではナポレオン3世が各地の温泉地を訪れたことにより一大ブームとなったそうだ。
他、着ているものに目を移すと籠の運び屋である両脇の男性がどちらもBiaude(ビオード)を着用しているのが確認できる。これは側章入りのパンツや帽子と同じく制服だったと思われるのだが、右側の男性の方が帽子も目深に被りスカーフも巻き方が洒落ていて2者2様の着こなしなのがとても興味深い。ちなみにBiaudeといえば昨年購入したカードでもオーヴェルニュの男性がお出かけ着として着用している。籠運びの制服とお出かけ着では意味合いは違うけれど、Biaudeは今で言う所のジャケットのようなきちんとした印象を与えるものだったのではと想像する。ちなみに籠に乗っている男性の足元には木靴とストライプの布(?)が確認できる。

もう1枚は男性7人が飛行機に乗っている設定で写真に収まっている「ハリボテ写真館」。先頭の男性が握る操縦桿らしき小道具は用意されているものの、肝心の飛行機本体はあっさりというかかなり簡易的に描かれていて最後方の男性が持つハンカチもダラリと垂れ下がっており、全く臨場感を演出できていないユルさも魅力だ。年代も様々に見える7人の口元にはまんざらでもない笑みが浮かべられており楽しんでいる様子も窺える。ひとつ残念なのは全員が帽子と上着を着用しているもののディテールや素材感までは分からない事なのだが、これがカラーだったらどんなだろうかと想像するのもそれはそれで楽しい。

今回は他に"A"のブログ掲載時から狙っていたバスク織りのテーブルクロス19世紀末のフェーヴが奇跡的に残っていたので併せて購入。

2日間振り回された季節外れの台風も最終日の閉店時にはすっかり通過し、帰り道では星空まで見えるほど。終わり良ければ次回は晴れる、と心から夜空に願いました。

Oct 15, 2017

And Then There Were None

アガサ・クリスティの作品「そして誰もいなくなった」には人形が重要な役どころで登場する。結末を知ってるくせに人形に降りかかる災難と展開をハラハラしながら読むのが毎回の恒例だ。

クリスティ作品では10体だったがこちらは11体、さつま人形である。
売り主の話では大名行列を模したものらしいのだが毛槍や駕籠、馬も見当たらないので完品かどうかは疑わしい。けれども一つ一つを手に取ってみると鋭い眼光とは裏腹に四角ばった姿が勇ましかったり微笑ましかったりと、あまりにも魅力的で完品かどうかはそのうちどうでもよくなってしまった。



彩色や小道具に対する細やかさとは裏腹に大切な島津家の家紋がかなりラフに見え無くもないが、それもご愛嬌。

それぞれの顔つきや装束の違いを見比べるだけでもなんと楽しいことか。中でもインパクトのあるポーズを飄々とこなす奴さんは存在感が抜群、個人的なイチオシである。

さつま人形といえば傍に犬を従えた西郷さんの「いかにも土産物」的なものを目にする事はあるがその他の種類、特にこのサイズ(9cm〜15cm)のものはとても珍しい。ひょっとすると趣味で作られた類のものかもしれないけれど、どういった経緯にせよとても丁寧に手をかけて作られている事は十分に伝わってくる。

ちなみにこのさつま人形は10月28・29日に開催されるポップアップショップ「アチコチズストア」で販売するもの。そういえば会場のまめ書房にはアガサ・クリスティのペーパーバックがディスプレイとしてさり気なく置かれていた。あの空間にこの11体が並ぶのが今からとても楽しみだ。


Oct 2, 2017

出張ブロカント『アチコチズストア』2017

今年も10月28日(土)& 29日(日)の2日間、神戸・岡本にある「まめ書房」にて出張ブロカント『アチコチズストア』を開催致します。
第3弾となる今回は、マニアックな部分はよりマニアックに、面白いものは更にジャンルレスに、バイヤー"A"と"C"が1年間それぞれに集めてきたものを展示販売致します。


わたくし"C"からはイヌイットアートにフォーカスしたソープストーン製のオブジェや壁飾り、またドイツを中心としたスモールピースの「飾りたくなる」リトグラフを今回新たに持って参ります。その他にも日本の古い郷土玩具や道具類(珍しいさつま人形や菓子型等)、様々な国のオブジェや陶器などなどを用意しています。"A"からは毎年ご好評をいただいている稀少なヴィンテージ衣料やバスク模様のうつわの他に古いポストカードや写真等、魅力的な品々をパリから携えて来る予定です。

秋も深まる2日間"A"と"C"共々皆様のお越しを心よりお待ちしております。

ー出張ブロカント『アチコチズストア』ー
会期:20171028日(土)ー1029日(日)
会場:まめ書房ギャラリー
住所:神戸市東灘区岡本1-12-26 マンション藤105
    (阪急岡本駅 徒歩3分・JR摂津本山駅 徒歩5分)
時間:11時から19
*お支払いは現金のみとさせていただきます。

Aug 29, 2017

News Boys

青色の布帛に黄色の文字、それだけでも十分目を惹く姿だ。加えて2種類の書体が使用されているので尚更興味深く、詳しく見てみるとポケットと紐も付いていて、これがエプロンだという事が分かる。


ではこのエプロンの正体は?というと、答えは文字にあった。上段にプリントされた"READ THE"のシンプルな書体に対して下段は恭しい書体で"Inquirer"とある、これは1829年から続くアメリカの新聞社"The Philadelphia Inquirer"のロゴの一部でクラシックな書体は(多少の変化はあるものの)現在も使われている。新聞社の名前が大々的にプリントされたエプロンやバッグは新聞の売り子たちが販売の際に身に付けていたもので、そういえば「ニュージーズ」という1899年にニューヨークで実際起こった新聞売り少年たち(News Boys)のストライキを題材にした映画があった。
持ち物目線で久しぶりに見てみると、ストライキを実行する主人公の少年(若かりし日のクリスチャン・ベイル!)が身につけていたのはベルトループに通したロープだけで、そこに新聞の束を引っ掛けている。他の少年たちも肩の上に担いだり脇に抱えるのが殆どで、結局目当てのエプロンやバッグは見つけられなかった。そこで当時の写真を検索してみると1900年前後では新聞の束を手で抱えている姿が多く、1910年以降少しずつバッグを持つ姿が見られるようになった。だが検索しながら何よりも気になったのは新聞を詰め込んだバッグを引きずるようにして持つ姿や、抱えた新聞が異様に大きく見えるほど彼、彼女らが幼い事だった。これらの写真には児童労働禁止へ尽力したルイス・ハインが撮影したものも多く、「ニュージーズ」でも売り子となるのは孤児や貧困層の子どもたちで、自らが捌けると思う部数を自費で買い取り、売れた分との差額が儲けになるという厳しい仕組みだった。
実際1899年のストライキもコスト削減のために販売価格は据え置いて仕入価格だけを値上げした新聞社に対抗したもので、ストライキは2週間続き最終的には新聞社が売れ残りを買い取る事で解決している。(値上げをした新聞社2社のうちのひとつはピューリッツアー賞を設立したジョーゼフ・ピューリッツァーの「ニューヨーク・ワールド」紙だった)その後アメリカでは1938年に労働基準法が成立し過酷な児童労働の禁止が制定された。


さて話を"Inquirer"のエプロンに戻すと、染色やプリントの具合から恐らく1950年〜60代のものだろうと推測されたのだが、実際に新聞を入れてみてこのエプロンがいかに実用的でなかったのかがよく分かった。マチが無いので入る部数も限られ、これを使った売り子はさぞや補充に手間取っただろうと想像する(つり銭を入れたり広告的な役割だったのかも)。しかも路上での販売から自転車での配達に移行してますますエプロンの出番が少なくなったのは容易に想像され、代わりに自転車に取り付けるタイプや車道での接触防止に夜光塗料が施されたバッグが登場している。
それにしても容れ物は時代に沿って変化しているのに新聞そのものは仕様や材質にほぼ変化が無いのも面白い。1899年も今もガサゴソと音を立てながら読むのだから。


Aug 17, 2017

New Items

フランス arcopalのミルクガラスのマグカップ
アメリカ Braniff航空 アレキサンダー・ジラルドによるデザインのデミタスカップ

3種をachikochiz shopにアップしました。
詳細はこちらからどうぞ。




Jul 26, 2017

フレーミングの法則

その美しい表紙を見た時、とても不思議な感覚に陥った。この作品を知っているはずなのに、記憶のものとはどこかが決定的に違うのだ。


表紙を持ったまま首をかしげる事しばし、なんとか記憶の引き出しから小村雪岱を取り出す事に成功。厳密には小村雪岱の「雪の朝」という作品の一部。(下画像の左ページが作品の全体像)

これはアムステルダム国立美術館(RIJKSMUSEUM)で2016年に開催された日本版画の収集家エリーズ・ウィッセル(ELISE WESSELS)氏のコレクション展
"JAPAN:MODERN. JAPANESE PRINTS FROM THE ELISE WESSELS COLLECTION"
の図録、これがたいそう面白い。
青〜黄緑〜ピンクと美しいグラデーションになっているPP素材のケミカルなカバーに版画が包まれているという対比もユニーク。
裏表紙には「JAPAN:MODERN ジャパン モダン」の文字

表紙だけでも既に前のめりだったのが、ページを進めていくともっと心を奪われた。
小早川清の脚

川西英と前川千帆の波止場

川西英と川上澄生の夜の群衆

ところどころに挟み込まれれたこれらのクローズアップは、選び方や切り取り方が面白く図録全体にリズムをもたらしている。作品の全体像と見比べていると、まるで実際の会場で遠くからだったり近づいたりしながら見ているような気分だ。
小泉癸巳男「羽田空港飛行場」1937年



右ページ 恩地孝四郎「ダイビング」1932年


この図録の素晴らしいところはセンスの良い構成だけでなく資料としてもとても優れている点。歌川広重や葛飾北斎、菱川師宣等の浮世絵(TRADITIONAL JAPANESE PRINTSと明記)に始まり、コレクション展のメインテーマである創作版画"CREATIVE PRINTS"と新版画"NEW PRINTS"についてその成り立ちと歴史に関するマニアックな解説(版元の渡辺庄三郎や小林文七の名前まで出てくる!)、またそれぞれの代表的な作家(前者は山本鼎や樋口五葉等、後者は伊東深水、川瀬巴水等)についても詳細な情報が記載されている。
特に20世紀前半の50年間で変貌する日本の文化や混沌の様子(特に大都市となる東京)を創作版画と新版画が記録しているという内容(たぶん)の解説が印象的だった。

恩地孝四郎 L'outomne(左) L'hiver(右)1927年

川瀬巴水 二重橋の朝 1930年(左) 相州前川の雨 1932年(右)

深沢索一 昭和通ガソリンや 1933年(左) 諏訪兼紀 浅草 1930年(右)

小泉癸巳男 東京駅と中央郵便局 1936年

辞書を片手に作品と解説の間を何度も行き来するのは苦しくも楽しい作業だ。アムステルダム国立美術館の場所はとっくに確認済みである。



Jun 30, 2017

Warp and Weft

布を買ったのは久しぶりのことだ。
とは言え、今のところ壁掛けでは無く外套的な意味で肩から掛けて使うつもりなので、マントもしくはショールと呼ぶ方が相応しいかもしれない。
まあ壁掛けでもベッドカバーでもマントでも、この布がとても素敵なのは疑いようがなく、目に飛び込んできた瞬間アタマの中で歓喜の鐘が高らかに鳴り響いたのだった。


これはインドとミャンマーの国境付近に暮らすナガ族(ナガランド州に住む複数の部族の総称)のもの。売り手であるティモールテキスタイルの岡崎さんの説明によると、この布は現代のもので素材はコットン、染めは化学染料が使われていると思われるが刺繍は手によるもので伝統的な要素が図柄になっているのだそう。
ナガ族についてはそれまで耳にした事が一度も無く、ユニークな刺繍にばかり目がいっていたのだけれど、かつては首狩りを行なっていた部族という事実を聞き衝撃と同時にこのインパクトある刺繍とのギャップにナガ族についてもっと知りたいと思った。早速図書館に行っていくつかの文献を手に取ってみるも、ナガ族及びナガランドに関するものは予想以上に少なく、19世紀にイギリスがインドとビルマを植民地化するまではほぼ未開の地であった事、また2011年に入域規制が解除されるまでは外国人の入域を厳しく制限していた事等、歴史的背景によって情報量が限られる事を知り、刺繍された図柄の意味を探すのは容易では無いことだけは判明した。


それでも刺繍と文献の間を何往復かするうちに、いくつか手がかりのようなものを見つける事ができた。上の画像右下にある動物の角の間に人がいる図柄はそれぞれの村にひとつあるという門に施された大きな装飾でとても似ているものがあった。刺繍との違いは門では動物(ミトンと呼ばれる大型の牛と思われる)の角は人間の首に向かって弧を描き、頭上で人の首を挟んでいる(刺さっているとも言える)ような構図になっている点。門はかつて夜間や襲撃の際には閉められていたそうで、いわゆる砦としての役目とそれぞれの村を表わす象徴としての役割もあるのだろう。が、流石にそのままを図柄にするの少々刺激が強すぎるので刺繍ではソフトな表現に、ということだろうか。(その割には頭が血だらけの動物もいらっしゃるような気が・・・。)



動物も数種登場しているが、特に牛は生活に欠かせない存在らしく、牛を引いているような図柄も見られる。また前述のミトン牛や水牛が持つ大きな角は杯や角笛としても使われているようで、角笛らしきものも。


そういえば調べる中で何度か目にしたのが角杯やバナナの葉で作ったカップにズトーという酒を入れて飲んでいる場面(特にお祭りの場面)。ズトーは米を粉状にして発酵させたライスビールで、その工程について「一昼夜水につけた米を臼と杵で衝く」という説明がある。とすると角笛の隣で2人の人間(?)が棒を刺している風の図柄も臼と杵に見えてくるから面白い。米を主食とする農耕民であり、同時に狩猟・牧畜民族でもあることを知ってから刺繍に目をやると、確かに彼らの暮らしの一場面であることが良く分かる。ちなみにナガ族はズトーの他にも納豆や漬物に似た発酵食品を食べるそうだ。


またナガ族は布(ショール)を男女問わず様々な場面で使用していて、普段は衣類代わりに身体に纏ったり、スカートのように腰に巻いたり、時には子供や道具をくるんでスリングのようにして身体から下げてたりもしている。正装の際に身に付ける布はどれも色や柄が鮮やかで美しく、中でも長老だけが纏う「リケツラ」というショールは幾何学的な図柄が刺繍orアップリケで施されているようなのだが、何度見てもその頁で手が止まるほど美しい。

岡崎さんはナガ族の殆どがキリスト教に改宗した事でこういった伝統的な図柄も残ったのではないかと話されていた。もちろん改宗したことで失われた伝統(首狩りもそのひとつ)も多分にあるようだが、偶像崇拝を厳しく禁じるイスラム教だとこの素敵な布とも出会えなかったのかもしれない・・・。色々調べていくうちにこの布に対する見え方もどんどん変わっていく。

なんとなく気に入って手にしたデザインやシルエットが実は遠くの国の歴史や宗教的背景と密接に関わってる、そんな当たり前だけれど忘れてしまいがちな事実を強烈に思い出したら、沢山の偶然や必然を経て今手元にあるモノたちがより愛おしくなった。
ナガ族との付き合いはまだ始まったばかりだ。


美しいものは裏側もキュート。


参考文献:「入門ナガランド」多良俊照 社会評論社
     「秘境ナガ高地探検記」森田勇造 東京新聞出版局
     「写真で見るアジアの少数民族(南アジア編)」森田勇造  三和書籍
 

Jun 20, 2017

New Items

ドイツ Arzberg 無地のプレート
フランス Digoin Sarreguemines 小花柄のプレート

リムの色が特徴的な2つのアイテムをachikochiz shopにアップしました。
詳細はこちらからどうぞ。






Apr 30, 2017

Blowin' in the Wind

柳宗理はかつて雑誌『民藝』の「新しい工藝(その後、生きている工藝に変更)」で取り上げた化学実験用蒸発皿について
「ただ実験用に、より使い易くということで、長い間に自然と浄化されて出来上がってしまったと言えましょう。これをアノニマス・デザイン(自然に生まれた無意識の美)と言うのです。(中略)民藝の言う不二の美、絶対の美とは、正にこのような美を指すのではないでしょうか?」と述べている。⁽¹⁾


この連載はケメックスのコーヒーメーカーからジーンズ、はたまたボラード(繫船柱)まで柳宗理が選んだ美しい機械製品について語られているもので、機械工藝と手工藝という、そもそも不要な区別自体を拒否し、良いデザイン、美しいものに対する氏の思いが宣言のように綴られている。それは同時に民藝の未来に対する憂いの表れのようでもあり、機械工藝を否定しがちな『民藝』読者(論者)に対して時には鋭く、時には説き伏せるように新しい視点を執拗なまでに提示し続けていている。

目的に向かって純粋に形作られたもの、で思い出すのがこの鉄の楔で、最初見た時はなんと格好の良い「何か」だと思った。手に取るとその形状から楔というのは想像できたものの、相手が石なのか木なのか分からなかったので調べてみると「木割矢/金矢」という言葉にすぐ辿り着いた。素材等で多少の変化はあれども薪割り用として現在もほぼ同じ形状のものが使われている事からも、これも一つのアノニマス・デザインなのだと思う。

矢羽模様のような溝は本来滑り止めであるのに意図せずデザインのアクセントになっているところも興味深い。

鉄でもう一つ。

茨城の製糸工場のものらしいと売主の方が言っていたので、調べてみると古河で製糸産業が盛んだったらしいので、その辺りのものかもしれない。よく見るとそれぞれに重さを示す数字や印があって、結ばれたままの色糸と錆びた鉄の対比も美しい。錘には鉄以外にも陶製のもの等、用途によって様々な材質があり、また国によっても姿を変えるのでついつい集めてしまうものの一つとなっている。

柳宗理はこの連載でインク壺の容器を取り上げた際には次のようにも語っている。
「さてこの木製の容器は轆轤という機械で造ったものですが、木肌の故か、手工藝的な暖かさを持っております。河井寛次郎さんは機械は手の延長したものであるとよく言われましたが、なるほど、人間が造るものを、手工藝と機械工藝とに分けるのは、素直でないような気がしないでもありません。いずれにせよ、手工藝的製品であれ、機械的工藝品であれ、良いものは良いのであって、その良いという絶対的な美の世界には、手工藝的とか機械工藝的とかいう区別された二元の世界は、自ずと解消されてしまうと言えないでしょうか。」⁽²⁾


この連載は第49回のショルダーバッグで終了するが、読み返す度に情報や知識で凝り固まりそうな頭の窓を全開にして風を運び入れてくれる。余計なフィルターをかけず、良いものは良いというシンプルで一番大切なこの感覚をいつも最前列に置いていたい。

(⁽¹⁾⁽²⁾ 出典:柳宗理 エッセイ(株)平凡社)

Mar 27, 2017

New Items

ノルウェー BERGENのパッチワークペナント
韓国の古いキロギ
アメリカ 1946年のペナント

3点をachikochiz shop にアップしました。
詳細はこちらからどうぞ。





Mar 26, 2017

Tricolore

韓国の縁起物であるキロギは水鳥を模していると言われているが、そのモチーフは鴨や雁等諸説あって詳細は定かでは無い。水鳥が多産であることや1度つがいになると一生添い遂げると伝えられている事から縁起物として現代も結婚式の儀式に使用されているらしく、確かに韓国の土産物店に行くとポップな表情とカラフルなキロギがつがいで売られている。しかしこれまで骨董店などで見かけたキロギはどちらかと言うと1羽のものが多く、更に彩色されていない無地のものが殆どだった。気になって色々調べてみると、水鳥=渡り鳥は陸・空・水を行き来する事から、あらゆる世界、あの世とこの世を繋ぐものとしても捉えられ、昔の儀式ではつがいではなく1羽のキロギが使用されていたらしい。また新旧どちらのキロギにもポジャギのような布が巻かれているものがあるが、古くは本物の水鳥を儀式に使用しており、動かないように布で胴体を包んでいた名残とのこと。


今回見つけたキロギはこれまで見た中で最もインパクトのあるシルエットでしかも赤・青・白に彩色されている。手作業の様子がそこかしこに見受けられ、剥離等が見られる表面の状態から恐らく朝鮮時代のものと思われる。ちなみにキロギで彩色されているものは貴族階級向けで、彩色のない無地のものが庶民向けなのだそうだ。




胴体部分のカクカクした直線のシルエットに対して首から頭は曲線というバランスが面白い。彩色だけではなく単純化された左右の羽模様はとても斬新で、背中部分も羽模様というよりウロコに見えるような気がしないでもない・・・。



色といい模様の描き方といい、とてもユニークで愛嬌がありますが、わずかに首を傾げている後ろ姿はなんとも哀愁を感じさせるのです。