iPodを検索してみると「Love Theme from Spartacus」という曲が5曲も入っていた。
正確にはその内2曲はBill Evansの「Spartacus Love Theme」なのだが、どれも1960年のアメリカ映画「スパルタカス」のテーマ曲で、オリジナルは入っておらず、アーティストも違う。
これらの曲はそれを目的にダウンロードしたものではなく、集めたアルバムにたまたま収録されていたものなので、繰り返して聴いているうちに前にも似たのを聴いたような…というデジャヴが起こり、そこでようやくバージョン違いが5曲も入っている事に気付いたのだった。
映画本編を観たのもつい最近の事で、テーマ曲だけ何度も聴いた後に観るのはなんだか申し訳ない気分だったが、その作品は今では考えられない膨大な数のエキストラが登場する壮大な歴史スペクタクルで、主演のカーク・ダグラスがマイケル・ダグラスの父上だったり、監督が若き日のスタンリー・キューブリックだったりと、驚きと圧巻の197分間だった。
ここにくらわんか皿がある。
関西に住んでいると「くらわんか」はたまに耳にする単語だが、その正体について深く考えたことは無く、大阪を「なにわ」と呼ぶように、枚方地域についての呼称という程度の認識だった。それが「くらわんか碗」の存在を知り、色々調べるうちに身近な単語や地名とどんどん結び付いて、一気に気になる存在となった。しかしいざ探すとなるとなかなか好みのものを見つけることができず、やっとこのくらわんか皿を見つけた時はとても嬉しかった。白磁の鈍い白の上に鳳凰と宝珠が赤と緑で描かれているが、強すぎずむしろすっきり見えるバランスがとても渋くて気に入っている。
くらわんか碗(皿)はくらわんか舟で使われていたうつわ(もしくはそれを模したもの)の事で、くらわんか舟とは江戸時代に大阪・京都間を流れる淀川を往来する三十石舟相手に食べ物や酒を売っていた商い舟のことだ。ちなみに正式名称は茶舟で、煮売舟とも呼ばれていたらしく、時代劇に度々登場する煮売屋(今で言うところの総菜屋)の舟バージョンだ。
淀川蒸気船は明治元年の誕生で、京阪鉄道が開通するのは更に先のことなので、当時京都と大阪を結ぶ三十石舟は最もポピュラーな交通手段だった。最盛期には1日320便、およそ9000人が往来したそうで、下りは6時間、川の流れに逆らう上りは12時間かかり、曳舟といって乗組員が岸から綱で引っ張っていたというから驚きだ。(料金も上りは下の倍以上したそうだ)
枚方は大阪と京都のほぼ中間地点であり、当時主要な中継港(枚方宿)で、くらわんか舟は停泊する三十石舟に横付けして商売をしていたらしい。そのかけ声は寝ている客までも起こす大声だったそうで「飯くらわんかい、酒のまんかい」(飯を食べないのか?酒は飲まないのか?の意)という乱暴な方言が名物となって「くらわんか舟」と呼ばれるようになり、あの東海道中膝栗毛や歌川広重の作品にも登場する。
三十石舟といえば落語も忘れてはいけない。庶民が京から大阪に下る道中の噺なのだが、現代も通じる大阪人から見た京都人の描写があったり、伏見人形が登場したりと何度聞いても面白い。演目が「三十石夢の通路」(または三十石)というように、今では1時間足らずの道中も当時は色んな出来事が繰り広げられたのだろう。そう思うと見慣れた淀川も随分違って見えるのだから、これもくらわんかのお陰だ。