Jan 3, 2019

The World's End


2019年が始まったばかりなのに、新年に相応しく無いタイトルになってしまった。

ワールズエンドというのは先日観たイギリス映画のタイトルで、学生時代に達成できなかった「パブ12軒を一晩でハシゴする」というイギリスらしい偉業(?)を達成するために20数年ぶりに集まった中年5人組の話だ。後半になるとストーリーは思わぬ方向に進むのだけれど、監督がエドガー・ライト、そして「宇宙人ポール」の2人が出ているとなるとむしろそれも自然で、次々と出てくるビールを彼らが苦しそうに(たまに美味しそうに)、時に仇のように飲んでいる姿を楽しみつつ少々親近感も覚えながら鑑賞した。

酔っ払いといえば、オランダのROYAL SPHINXの絵皿だ。
直径11cmの中に描かれた飲んべえ達はそれぞれ酒の種類も違えば、職業や年齢も異なる。


まずは左のポケットに手を入れた労働者らしきおじさん、手には酒の入ったグラスと傍らにはボトル。下部には” Le vin ordinatre “の文字があるが、これは「『普通の』テーブルワイン」の意味。くわえたパイプと斜めにかぶった帽子で仕事終わりの開放感を感じさせるこの男性、首元のスカーフと上着のシルエットにどこか見覚えがあると思ったら、ここ数年少しずつ集めているフランスの古い写真ハガキ CARTE POSTALE の登場人物と服装がとても似ていることに気づく。スモック風な上着はまさにBiaude(ビオード)で、ROYAL SPHINXはオランダの陶磁器会社だが、こんなところで共通項を見つけるのはとても楽しい。

次は不思議な帽子を被った若者?である。彼の傍らにはピッチャーらしき酒壺があり、下部には”Le Cidre”の文字でこれはシードルの意味だ。ベストと側章入りのパンツ、足元には木靴と大道芸人のようにも見えなくは無いが、ご陽気な表情でさぞ今宵の酒はうまい事だろう。見事なまでに半分に割れて継がれているのはご愛嬌。



上の元気そうな若者とは打って変わって次は髭面のおじいさん。服には当て布が施され、帽子もヨレヨレで背後に置いた籠にまで補修の跡が見える。何かの行商人なのかもしれないが、テーブルにはボトルやピッチャーは見当たらず、小さな陶器のカップのみ。”Eau-de-vie”は直訳すると「命の水」となり、これは薬酒として使われていた蒸留酒やブランデーを指すらしいのだが、遠くを見つめるおじいさんの険しい表情に命の水という取り合わせがなんだか切ない。



お次も髭面のおじいさんだが、こちらはどちらかというと紳士風。パイプをくわえ、テーブルを背にしたその姿勢は先程のブランデーのおじいさんとは少々印象も異なる。
さてこの老紳士のテーブルに置かれた酒は”L’Absinthe” ことアブサン。アブサンも元は薬酒だったそうだが、禁断の酒や悪魔の酒と呼ばれた事から想像出来る通り中毒者も多く、その数が増加し過ぎて一時期製造中止にもなっている。それにしてもテーブルに置かれた酒瓶の下に向かってやや傾斜するシルエットはまるでコンプラ瓶を思い起こさせる。コンプラ瓶といえば東インド会社が長崎からオランダやポルトガルへ酒や醤油を輸入していた際に使用していた物なので、その空き瓶を再利用したり模倣したりしても何ら不思議ではない。またその隣に置かれた酒器も脚のついた変わったデザインで、調べてみるとアブサンには幾つか飲み方があり、アブサンスプーンと呼ばれる平たいスプーンに角砂糖を乗せ水を注いで溶かし垂らす飲み方があるらしい。この絵皿にアブサンスプーンは見当たらないが、もしかすると当時からアブサン用の酒器というものがあったのかもしれない。



今はもう手元に無いのだけれど、他にも"Pale ale"(ペールエール)と"Le Rhum"(ラム)の種類があって、前者は傘(酒も持ち物もイギリスらしい)とガイド本を持った紳士、後者は葉巻を手にした労働者らしき男性が描かれていて、どれもバラエティに富んだ楽しい酔っ払いのシリーズだ。

と、新年早々酔っ払いばかり紹介してしまったがお正月といえば祝い酒、という事でお許しいただきたい。

この1年、美味しくお酒が飲めますように。

本年も何卒よろしくお願い致します。